午前9時半
竹芝桟橋よりおがさわら丸に乗船。
こちらの天気は良いのに小笠原の天気はあまり良くないと聞く。前回の二の舞になるのかと少々の心配あり。
午前10時
出港!
午前11時
今回は2回目の渡航なので、少々慣れてきた感があり、初めてらしき渡航客が騒いでいるのを横目で見ながら、前回の自分はあぁであったろうと恥じらいを覚える。
隣の客が携帯電話を片手に大声で電話をしている。暇でやることがないのは分かるが、内容も大したことなく、人迷惑な奴だと感じる。
仕事をする上で重要なのがコンセントの在りか。前回の渡航で場所は抑えていたが、その狙っていた場所を占領されてしまった…失敗した。もう直ぐバッテリーが切れてしまうので、あの宴が早く終わってくれと祈る。
正午
喫煙所内のコンセントを発見。煙の臭いが気になるが、他に見つけられず入所。
会社からのメールをチェックし、指示事項を返信。喫煙所なだけあり、換気量が多く、肌寒く感じる。動いていないのに空腹感有り。
焼酎の誘惑に負けそうになるが、旅行ではなく仕事だと言い聞かせる。
午後2時
圏外となり会社とのメールが途絶える。これにて孤独の始まり。
午後4時
天気が悪く、波も高い。船の揺れも大きくPC画面を見ている余裕はなくなる。
午後7時
食欲もなく、船内のスナックへ。烏龍茶とたこ焼きを食す。
今日は数年ぶりにアルコールを摂取しないと決める。喜んでいるのは肝臓くらいだろう。
午後11時
やはりアルコールを摂取しないと寝つきは悪い。
午前3時
目が覚め、船内をウロツク。
午前5時
目が覚め、船内をウロツク。
午前7時
起床。
船内アナウンスで、到着予定時刻よりも遅延すると連絡。
朝食をとるか迷いながら仕事を始める。それにしてもよく揺れる。今回は2等船室ではなく、特2等船室で助かった。あと5時間船に揺られた後、施主と打ち合わせができるのか若干の不安あり。
2等船室
特2等船室
*船室写真は小笠原海運ホームページより頂戴しました。
午前9時半
船の揺れは相変わらずで朝食をとる気にもならず。昨日から8つ入りのたこ焼きしか食べていない。
あと2時間半で父島着予定。船内もそわそわしてきたが、私はもうひと寝入りしようか迷っている。やはり夜にアルコールを取らないのは体調に悪いのかもしれない。
会社が気になる、早く電波の届く領域へ突入して欲しいと願う。
午前9時45分
船内アナウンス。
聟(むこ)島列島付近、嫁島も見えるらしいが、雨風がひどく、甲板に出る気持ち喪失。前回来た時は、上陸した途端の雨だったが、今回は上陸前からの雨、ガッカリである。
午前10時
ソファを一つ占領し、寝るのをやめて仕事開始。
午後からの打ち合わせ準備を整える。一度寝床へ戻ったが、お隣さんが朝から酒を飲み、臭くて眠れなかったのが正直なところ。
船酔いをしないコツは、船に身を委ねること。船に身を委ねるとは、波に身を委ねること。これができない人間は船に酔う。
横になるだけでなく、壁にも体をくっつけ、船の揺れと己の揺れを同化する。すると脳も含め身体が一緒の揺れを感じて快適になる。揺れに抵抗して立っていようとか、溢さないようにご飯を食べようとすると気分が悪くなるのである。人間の原点は自然に従うことである。
夜中の航海で、消灯されエンジン音と波の揺れだけを感じる時間は心地よかった。船のエンジン音は一定ではなく、波に合わせて加速・減速を繰り返し、乗船している人々に対し、波の影響での揺れを最小限とするように気遣っていた。
昼間は体感できないことであったが、そんなエンジン音と波に揺られながら、久しぶりに幼き頃の夢を見た。
午前11時
PCから目を外にやると、晴天となっていた。
非常に嬉しく、PCを片付け上陸準備に入る。あと1時間、少々空腹だが上陸してから食べようと思う。
到着1時間前なのに電波は圏外、圏外という表示とのニラメッコは続く。
正午
父島上陸。
やっと晴れてくれた。
パンを買い、昼食。かなり暑い。
宿には私の他、学生が1名泊まるらしい。この時期に学生が遊んでいられるのかと思いながら。
13時半から打ち合わせ、急いで食べねば…。
午後1時半
施主打合せ。
設計図の精度や出来栄えをかなり喜んでもらえた。普通に図面を描いただけなのに、ここまで喜んでもらえると逆に恥ずかしくなる。
この喜びをスタッフにも伝えたいと思う。
午後4時
現地へ。
住民の方々が覚えていてくれて挨拶を交わす。
現地と図面の照合を終え、内地にいる設計チームに確認の連絡等。議事録のメールを終える。
午後5時半
宿「シルバームーン」着。
どうしてこの宿を気に入ってしまったか、首をかしげる。オンボロで外に出ないとトイレもないし、食事は出ない。でもきっと、この不便さと昭和の臭いが貧乏性の田中好みなのであろう。
前回の帰り際に挨拶したあの三毛猫も、日向ぼっこをしていた。
明日の午前中で打合せ事項はほぼ終わる。
他の建物も頼まれたので、明日の午後にでも相談に乗ってあげよう。
………ということで今日の仕事はここまで。
明日は早朝から打合せ。島の朝は早い…という言い訳で、これから焼酎を飲みに小さな繁華街へ独りくり出す。
午後6時半
テキトウな身支度をして宿を出る。
フラフラ歩いて店を物色したが、結局以前入った事のある店へ入店。焼酎ボトルを頼むと同時に名札をかけると言われ、キープする気はないからと断る。
午後7時
独り宴の始まり。
食事らしい食事は久しぶりだったので、頼むツマミも何時も食べているようなモノになり、少々後悔。前回もそうだったが、こちらでは親切心から焼酎のボトルをカウンターの裏に隠す。これを断って、自分のペースで飲みたいと訴えたのが19時半。
普段好んで食べない豆腐を「島豆腐」と書かれると食べたくなり、鯨の竜田揚げ、そして最後はカメとなる。
カメの刺身
午後9時
すっかり店長とも仲良くなり、隣に座った若い女性も話に入ってくるようになる。
隣の女性は福岡からわざわざ来たという。今日は鯨のダンスが沢山見られたと喜んでいた。介護の仕事をしていて、その疲れから仕事をやめて慰安旅行だという。しょうがないから店長と二人でカメをご馳走する。
午後10時半
やはりカメネタは盛り上がる。
ウミガメを取る事ができる人は父島に一人、母島に一人しかいないと聞く。噂をするとその一人が入店…、これは酒を飲みすぎる言い訳にはもってこいである。
午後11時
店の裏から隠しメニューが登場。レバ刺なのだが、カメのレバーだという。
食してみる。私には美味いと感じたが、隣の女性はこれに耐え切れず帰宅する。
店長と話をすると、私の職業の話で盛り上がり、ついこう仲良くなると何かを頼まれてしまうのが私の長所なのか…相談は途中から有料だよと言いたくなった。
レバーがその代償と思うしかない。店長の顔がカメに見えてきた。
午後11時半
焼酎のボトルは既に空となってしまい、店長に別れを告げる。
帰り際、「また明日!」なんて言ってしまって、暗い帰り道でカエルに笑われる。
午前12時過ぎ
床に就く。
午前6時
三毛猫の鳴き声が目覚ましとなる。
午前6時半
風呂に入り、昨晩の後悔と共にニヤリとする。
午前7時半
散歩をしながら途中でおにぎりとお茶を買い、公園ベンチで朝食。
午前8時半
支庁にて打合せ。
景観条例だの環境配慮指針だの新任の担当から説教のように聞かされる。
散々聞かされた後「前回来た時にも同じことを聞きましたが、○○○だけ言うことが違いましたけど…。」と嫌味交じりにポツリ発言。
本来この発言はNGだが、昨晩のカメのお陰で少々強気モードとなってしまった…失敗。
弊社でやった他の仕事を例に出し、考え方などこちらから教えてあげたが、どこまで理解してくれたか。
午前11時半
打合せ終了。
会社に電話できていなかったので急いで連絡。電話中、昨晩のカメ店長とバッタリ!店長もビックリという感じ。やはり「今晩も来いよ!」という意味か…。
正午
宿に戻り、午後の準備と着替え。
今日はかなり暑い。
午後12時半
昼ご飯を忘れていたので、急いで外に出る。
外階段を降りると、宿のオーナーが日陰で涼んでいた。ここのオーナーはおばあちゃんとその娘らしい。植物のことやメジロが島唐辛子を餌としていること、おばあちゃんの若かりし頃に、ご主人とグアム行きの飛行機で出会ったこと等々…気付くと13時となり慌てて食事をするところを探す。
午後1時10分
打合せ場所近くの食堂に駆け込む。
日替り丼が海鮮丼だったので、それを頼む。直ぐに出てきて食したが、六本木の寿司屋の海鮮丼の方が遥かに美味かったし安かった。「二度と来るか!」といいたくなったが、午前中の二の舞になると言い留まる。
カメを食べて、性格まで変わるのかと恐ろしくなる。
午後1時20分
村役場の直ぐ近くに浜辺があるので、多少の遠回りをし、浜辺から会社に電話をする。電話から波音を聞かせうらやましがらせる…このような悪戯心は自制せねばスタッフのやる気をそぐと反省する。
午後1時半
役場にて打合せ。
世界遺産という言葉を連発され、監理業務の重要性を改めて感じる。とにかくこの世界遺産を目指す島に必要とされ、それに応えるべく生きている事に喜びを感じる。
ちょっと熱くなり過ぎるのも、カメのせいかもしれない。いったいどうしたのだろうか…と首をかしげトカゲと目が合う。
午後3時
約束していた別件の調査に協力するため現地へ。
ここでは何故か、一言発する度に感謝される印象あり。そんな私は神様じゃないといいたい。
もしかしたら本当にこの島で2件目の仕事となってしまうかも…。
午後4時
母島の住宅に関する相談。
あまり詳しくは書けないが、問題点を投げかけられ5秒もかからずに解決策をヒラメク!
こんなに完璧な建築家は、そういないだろうと嬉しくなる(ニヤリと自己満足)。
午後4時半
再び支庁へ。
午前中に打合せをした方々との再打合せだったので、午前の失態を取り替えそうと「腰を低く」と念じる。再会すると、相手方も腰が低く丁重なもてなしに驚く。
相手方が上手なのかそれとも私の後ろに何かが憑いているのか…。
午後5時半
宿の前庭のベンチにて会社に連絡。
午後6時
書類整理しながら、夜は“あそこ”に行かねばならないのか迷う。
午後7時
小さな繁華街を彷徨う。
午後7時半
やはり昨晩お邪魔した店を選択する。
入店すると昨晩、私が如何に印象を与えたのかが明白となる歓迎を受ける。これは良くないと思いながら、何でこうなってしまったか言い訳を考える。
今夜もまた、焼酎を一升瓶で頼んでしまった。店の「思う壺」だと感じながらも、それに委ねた発言をしている自分に気付く。
枝豆と焼酎で時を過ごしている。野菜を頼もうと従業員に相談。
午後8時過ぎ
何故か従業員から話をされ、その対応に酔っている暇も無い。
一級建築士が珍しいのか、質問攻めに会う。
午後8時半過ぎ
一人の店員が、以前港区某社で受付嬢だったと話す。
信じたくも無いが、信じたとして話は続く。せっかくの宴が台無しである。
午後9時
その女性が自分の友人で建築家がいると言いだし、名前も言うが私は不知。もう勘弁してくれよといいたくなる。
午後10時
店を出る。
今日こそは店長と顔を会わさぬようにと思うが、まず無理な話。店の外で「明日も…」と言われると断れないのが私の短所。
昼もやっていると聞くと「では明日は昼から!」とリップサービス。
午後10時半
宿に戻り、メールをチェックしながら、自分の不甲斐なさにイライラする。
そういえば、今日は2升目のボトルをキープして帰ってきてしまったと、飲み過ぎに反省。つまらない話を聞かせたあの店員のせいだと思いながら…。
内地から、興味本位で父島へ来た若者も多かろう。しかし、そのような者とはここで話をしていても何の価値も面白みもない…反省。
正体がバレた以上、黙っていると話かけられるので、誰と話したいかを見極め、自ら話しかけないと時間の無駄となる。
早く寝たほうがましと思う自分が情けなく感じる。
午後11時
外はコウモリの鳴き声と満天の星空ではあるが、明日一日を満喫する為に今宵は早く寝ようと誓った。
午前6時半
起床。
今日は、鳥のさえずりで目を覚ます。ウグイスは「ホーホケキョ」と鳴くと思っていたが、「ホーホケッ」と鳴く鳥に笑わされる。鳴き方が下手なのか、異なる鳥なのかの確認はできていない
。
午前7時
入浴。
朝風呂も、ここまで自然に囲まれるとヤミツキになる。
風呂から出ると、おばあさんが草むしりをしていた。急いでいる振りをして小走りながら挨拶を交わす。
階段を駆け上がると、学生さんのお出かけに遭遇。挨拶をしたが無視された。
午前7時半
「ははじま丸」の出航で、汽笛が鳴る。
どの目覚ましよりも迫力がある。
午前8時
ズボンをかけた壁下に、小さな白い物体を発見。珊瑚であった。
昨日浜辺に行った際に、ズボンの裾にもぐり込んだのであろう。
これは私が持ち帰ったのではなく、珊瑚が勝手に入ってきたと判断。
よって持ち帰っても宜しいでしょうと…。
父島の二見港は、当然人工的に作られた港でコンクリートで固められている。
二見港と、宿であるシルバームーンの間に道路があり、そのシルバームーン側に大木がある。港ができるまでは、その木が海との境界に在ったと昨日のおばあさんの話。
その話を聞いた後、偶然行った浜辺は港側にあり、昔は珊瑚礁が沢山生息していたとは明白。ズボンの裾に入ってきた珊瑚の訴えと、おばあさんの話がここでつながってしまう。
これぞアニミズム…こんな神秘的な経験はなかなかできない。
やはり何かあるぞと背筋がゾクッとする。
午前8時半
空腹を示すシグナルが鳴り、空想の世界から現実に引き戻される。
午前9時
フラフラ散歩をしながら朝食を探すも、美味そうなモノが見つけられず、パンとお茶を買って宿に戻る。
午前9時15分
仕事を始める。今日は宿にて書類と議事録整理に加えて消防からの連絡待ち。
午前10時
メールチェックを忘れていた。
北海道の川崎さんからメール有り。ウチワを仰いでいる私とは対照的に、「まだストーブを使っている」とメールに記されていた。
その他数件の仕事メールに返信する。
今日は比較的涼しいほうかもしれない、雨が降りそうな曇り空。
午前11時
突然のスコール。今日は内勤でよかった。
午前11時50分
会社に電話。
打合せ事項を確認し、午後1時から電話で打合せをしようと約束。
正午
雨が止んでいた。
急いで昼飯を探す。“カメの店”には、スコールだから行けなかったと言い訳ができる。
弁当屋のガラスを叩くと店のおばあさんが出てくる。ここからまた漫才の始まり。
陳列され山積みの弁当を見て、
田中:「何種類の弁当があるんですか?」
店員:「1種類しかないのよ。」
田中:「でも数種類あるようにみえますよ…ほらこれとこれ違いますよね?」
店員:「一緒よ。ご飯の部分をおにぎりにしたり、入れ物の形状が違うから、
小さく刻んだりしているだけ。」
田中:「入っている量も違うようにみえますが。」
店員:「そうね。」
田中:「じゃぁこれください(中くらいの弁当を指差す)。」
店員:「無理よ!」
田中:「えっ、何か?」
店員:「あなたの体型じゃぁ、一番大きいのを買わないと。」
………と言われ、一番大きなお弁当を買わされた。
値段は750円。高いなと思っていたらお茶まで買わされ890円。
結構ご年配の方なのに、かなり面白い会話だった。そのやり取りは文章ではちょっと伝えきれない。
私はカラカイ易いのか…。
午後12時15分
足早に宿に戻り、窓を開けると外はスコール。 ラッキーだったなぁと思いながら、あのおばあちゃんの顔が忘れられない。
父島は私を楽しませて驚かせてくれている。
午後12時50分
おばあちゃんに騙された。こんなの食いきれん。
下で雨宿りしている猫らにあげると、喜んで食べた。知らぬうちに猫の餌まで買わされたということか…。
午後1時
仕事を始める。
ここと会社での電話だとタイムラグが生じてしまい、イライラ発生。仕方ないことと思いながら、何とかやり取りを終える。
午後2時
設備設計の担当と電話でやり取り。
外のスコールは止むことなく降り続く。
横樋はオーバーフローし、雨の激しさを感じる。
午後3時
携帯が鳴り、消防からの呼び出し。
歩いて15分のところだが、この雨の中での呼び出しは多少の嫌がらせか。
午後3時15分
打合せ開始。
打合せというよりは、相手は新任なので一から教える感じだ。まぁ、これも仕事と思いつつ、ズボンがズブヌレとなっている事をさり気なくアピール。
いくら説明しても、「また分からないことがあったら連絡する」と言われる…ガッカリだ。何も理解してもらえていないのでは…と推測する。
午後3時40分
弁当屋の前を通る。
もう店を閉めている。
………気楽な商売だ。
午後4時
大きな汽笛と共に、「ははじま丸」が帰ってきた。
今日の日帰りツアーは最悪だったろうに…。
午後4時半
早速消防から電話が入る。
もう明日は帰るというのに、バタバタしてきた。
施主などにも連絡。仲介役も仕事だ。
午後5時半
もうこんな時間だ。
携帯が次から次へとかかってくる。何を今更こんな…という状況だ。
午後7時
まだ仕事が片付かない。困った。
午後8時
もう我慢の限界と感じ、繁華街へ。
傘を差し、特に迷うこともなく何時もの店へ。
店長は見て見ぬ振り、その他は歓迎モード。昨晩に続き、これはおかしい環境と感じる。今宵は最終日だからかにぎわっている。
午後9時
座敷にいる若者が飲みすぎてしまい、小さな騒ぎとなる。田中への悪影響は異臭程度であろう。
3日間しか来ていないのに、六本木の焼鳥屋と変わらぬ応対を嬉しく思う。
午後10時
明日の昼に食べに来る事を約束して、早めの帰宅。明日の昼は最後だから来るようにと視線を感じる。
店長の見たことの無い手を振る姿、記憶から抹消せねばならないと感じる。
午後10時半
宿に帰ると学生君の部屋に来客がある模様。騒ぐなよと念じる。
急遽予定された明日の朝の打合せの為、今日は早く床に入る。
午前7時
起床。
今日の打合せを憂鬱に思い、朝早くは起きられなかった。
午前7時半
入浴後、外に出ると2匹の猫が心配そうに見ている。猫にまで心配されるとこちらまで不安になる。
今日は曇りだがまだ雨は降っていない。気持ちよく最後の打合せを終え、気持ちよく土産を買いたいと感じる。
午前8時
帰り支度と打合せ準備。こういうときに何を言われても完璧な資料を作れるようになったのは、大阪府警現場での森本さんのおかげ。
午前8時半
準備完了。
劣勢な打合せを如何に逆転させるか、戦闘モードとなる。
六本木の事務所ではこんな仕事ばかりだ。ストレス社会は誰が作ったのか。
午前9時
朝飯を探し、喫茶店でカレーパンと野菜ジュースを腹に入れる。昔好きだった~カレーパン。
午前9時20分
打合せ前に観光センターに立ち寄る。
コピーはここでしか取れないのを前回教えてもらった。配布資料はこれで宜しい。
時間が少しあるので、浜辺で気持ちを落ち着かせる。何となく触った珊瑚が何となく欲しくなり、ポケットに入れる(すみません)。
午前9時50分
打合せ現場へ(省略)。
午前10時半
打合せ終了。
無事に終わる。
こういう打合せで勝ち続けねばならないのが、この商売だ。
我ながら上手く切り抜けられたことに、ニヤリとする。会社に待機させたスタッフと設計チームに連絡。この打合せの為に、万全を期してスタンバイしてもらっていたので、お礼と共に結果報告。
午前10時50分
太陽が出てきた。
打合せの成功と晴天で気分が良くなったので、お土産でも買うかという気になる。
午前11時
誰に何を買おうか考えたが、何時も通りテキトウとなる。また7月に来るのだし…。
午前11時半
シルバームーンにお土産等の荷物を預かってもらい、島内をフラフラする。
前回も行ったのだが、とりあえず展望台へ行ってみるかと思う。船内では体を動かせないので、少々運動しておいた方が良いと軽はずみな考え。
午前11時40分
この登りは結構キツイことを、思い出した。
軽率な判断だったと後悔しながら登る。途中、昨日の雨のためヌカルンデおり、靴が泥だらけとなる。
登山中、港区で遭遇する虫・は虫類は近寄られたくないと思うが、ここでは見つけると目を合わせたくなる。
不思議な感覚だ。
午後11時50分
到着。
関西弁のおば様方から話しかけられるが、テキトウにあしらう。この年代の方々は、相手の事を考えずにズケズケと抵抗なく接してくる。囲まれて人の身なりの事を初めに、「何しに来た?」とか「鯨は見たか?」など、「見てない」といえば「ここに来た価値がない」だの説教。
正午
下山中、大神山神社というものがあり、ここには毎回来るべきだなぁと思う。やはり神はいるだろうと思い出しているのは、疲労からか。
午後0時10分
おば様軍団に追いつかれた。「ついて来るなよと」小声でいうと、聞こえたらしく「そんなんいうたらアカン」と肩を叩かれる。最悪だ。
巻くように例の店に駆け込む。
午後0時20分
好物のとろろ蕎麦を大盛りで注文。
今日はカウンターに座らなかったので、店員との距離がある。一人静かにと思ったら、隣に座った中年男女二人の会話が面白くてたまらない。聞いてはいけないと思いながらも自然と入ってくる。
タオルを出して顔を覆い笑っていた。
午後0時半
やっと蕎麦登場。
店員とも少々の会話をして、わさびを卸してとっとと食べる。早く食べないと、笑いが止まらない。ここで笑みが見つかると、おそらくまた仲良くなり知人が増える。乗船前にこれ以上知人を作るのは面倒だ。
食後、直ぐに会計をする。店員に7月にまた来るからという。惜しまれる感じは、店の営業的教育が行き届いているからだろう。
午後0時50分
シルバームーンで挨拶をし、二見港へ向かう。
二見港では別れを惜しむ方々が会話をしている。ハイビスカスで作った首飾りやヘアバンドのようなものをしている人も多いが、花は美しくてもお前らちょっと…といいたくなる。
午後1時
乗船開始。
私は指定席なので急ぐ必要はないが、誰からも見送られる訳ではないので、さっそうと乗り込む。
午後1時半
着替えを済ませ、荷物を片付けていると聞いたことのある声が近づく。
「何でだよ~」と叫びたくなる。私の周りはあのおば様方集団。いびきでもかいたら、鼻に栓をしてやろう。
午後1時50分
逃げるようにデッキ最上部へ。
午後2時
出航。
前回も見た光景だが、皆で手を振ってくれる姿や、船で追いかけ最後にダイビングをする方々、嬉しく思う…が、早速声をかけてきたのが、カメをご馳走した女性。どうやらすごく楽しかったらしく、私に嬉しそうに報告してくれる。
彼女の嬉しそうな表情を見ていると、父島の力は偉大だと改めて思う。疲れた人々を癒し楽しませ、また来たいと思わせる力。人類は何かを忘れようと、アホなストレス競争社会を育んでいる。
見送り船
午後2時半
まだデッキから島を眺める。
その女性が「鯨が出たら教えます」という。ド素人が偉そうにと思い、適当に返事をした。第一、ホエールウォッチングは有料で見るもので、この船から見える訳が無い(…と思う)。
私はこの島の事を考えたいと思ったからデッキにいるのに、邪魔するなよと…。
午後3時
突然女性が大声を出す。
見ると指を差しており、その先をみると潮吹き。
鯨だ!
生まれて初めて鯨を見た。更に2度、潮吹きを見る。感動的だったが、この女性は一体何なんだろう。お礼をいう間もなく、その女性はデッキから姿を消した。
午後3時半
あの軍団がどのような騒ぎをしているのか、オソルオソル見に戻る。
まだ誰も戻っていない。このまま寝てしまおうかと思ったが、ベストポジションが空席だったので、PCの充電も兼ねてその場へ移動。
午後4時半
外は雨、海は荒れている。
また今晩も疲れそうな予感。とっとと寝るかと席に戻る。軍団は幸い静かに寝ているようだ。
午後8時
目が覚める。
相当揺れている。船が倒れるのではと思うほど。空腹の為、ポテトチップスを食べる。その程度しか食べる気になれない。
午後8時半
起きていられないくらい揺れる。素直に横になる。
午後10時
消灯の船内アナウンス。
船に揺られながら夢を楽しむ。木でできた魔法の杖をバットにして、野球をする夢だった。
午前0時
目が覚める。
午前3時
空調ダクトから、嵐のような音が流れ込む。相当外は荒れている模様。
午前6時
目が覚める。
揺れが収まった…それにしても本当に遭難するかと思った。
午前6時半
寝すぎて腰が痛い。顔を洗い、歯磨きを済ませる。
午前7時
船内アナウンス。
定刻通りに到着予定と聞く。今回の荒波で定刻通りとは、かなりの腕前だと素人ながらに思う。
午前10時
テレビの裏にあったコンセントを独り占め。
現在大島近辺のようだ。あと数時間で東京湾内。そうしたら、仕事を始めよう。
携帯電話の電波は非常に便利だが、安らぎを喪失させるエリアを生み出している。
私が学生の頃、とんねるずが「みんなを電話にする会社」というキャッチフレーズで、NTTパーソナルのCMをしていた。このCMは、時代を先読みしているとかなり強く感じていた。私の中で最も印象的なCMだ。当時、携帯電話を持っていたのは、数%であったはずなのに。約15年後、今では「みんなが電話」になった。
午前11時
何も考えない時間を楽しもうと、壁にもたれ目を瞑る。
正午
腹からのシグナル有り。動いていなくても腹は減る。肩こり酷く、廊下で柔軟体操をする。
今日は日曜だから、会社の心配は不要。少し気が楽な圏外期間だ。でも今日は誰も植木に水をあげてないだろうから、直帰はできない。
あと3時間半、空腹を我慢しようと誓う。レストランからの営業アナウンスにも負けず。
午後1時
東京湾内に入る。湾内に入ると波は穏やか。携帯圏内となる。
会社に連絡。
誰もいない…当たり前だ。でも誰もいない事で安心感を得る。これでも一応小さな会社の社長なので…。
それにしても、おば様軍団は飯の時間になると騒ぎ出す。そんなに食べたら気持ち悪くなるぞと言いたいが、何故か元気だ。底知れぬパワーを感じる。
私はカーテンを閉め、彼女らの視界に入らぬよう努力をする。
午後1時10分
到着予定時刻の訂正アナウンス。
「10分遅延に訂正させてください」と申し訳なさそう。
25時間半もの航海で、10分の遅延をアナウンスする必要があるとは思えない。おそらく以前、アホな客がクレームをつけた事があるからであろうと推測する。
あの荒波の中、10分しか遅れないのは拍手モノだ。
午後1時20分
ソファへ移動中、足がつる。
ソファの上でストレッチ。周囲から白い目で見られていないとよいが…。
午後1時40分
綺麗な空気から汚れた空気へ突入する。前回は頭痛で悩まされたが、今回は大丈夫か心配だ。
午後2時
帰り支度を始める。
おば様軍団から離れたいと思ったのが正直なところ。
午後2時半
羽田空港を発着する飛行機を眺める。重たそうな機体がよく飛ぶものだ。
午後3時
到着デッキなどを伝える船内アナウンス。
デッキから観光客はカメラでレインボーブリッジを撮るが、私は自分の現場の写真を撮る。
変な奴だと思われたろう。
午後3時40分
到着。
「疲れた~」と思いながら会社を目指す。
午後4時
そういえば、あの女性にお礼を言っていなかったと思い、彼女を探す。
午後4時10分
これも不思議だ…あの女性は現れない。また何時の日かお会いできるかな。
脳ミソが揺れてフラフラした状態が続く。
次回の渡航は7月。
午後5時
会社へ戻り、明日の打合せ資料をチェックする。
………これにて小笠原村父島出張日記は終わり。